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湯治場にて4

寂聴さんからサインをいただく時、言われたことがある。 「あなたのありがとうは、とっても素敵ね。あなたは、だぁれ。」

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一瞬、何のことをおっしゃっているのか分からなかった。サイン会のお手伝いでサハラはお寺の朱印を押す係りだったが、隣のCさんがティッシュをはさんで参拝者(本の購入者)に本を戻す時、一人ひとりに「ありがとうございます」と言って返していたことを寂聴さんは言っているようだった。

「あんな風に自然なありがとうは中々言えないものよ。」
どうも褒められているようなのだが、サハラはそのことより、「あなたは、だぁれ。」の質問にどう応えていいか分からず、少し困った。

どうして今日サイン会の手伝いをするようになったの?
あなたはどうして湯治をしているの?
あなたの職業は?
どこから来たの?
おいくつ?
結婚してるの?
子供はいるの?
---- 何を聞かれているのだろう?

「ワタシって、だれなの?」「う~ん」自問自答しながらサハラは応えた。
「ワタシの実家は海のそばで旅館をしています。4人姉妹の4女です。小さい頃から両親が言う、ありがとうございますを聞いて育ったので…。今は友達と湯治に来ているんです。」

寂聴さんの言った質問は、それほど深い意味はなかったかもしれない。
「まぁ、いいご両親の元で育ったのねぇ。お友達と一緒に湯治できていいわね。」
それで、その話は終わった。

体を壊してココロも弱っていた時期だったから、
「あなたは、だぁれ?」と聞かれ窮してしまったのだろうか?
ううん、そうではない。いつもいつもサハラは「ワタシは、だぁれ?」と自分に問い続けていたように思う。

『梅の木に薔薇の花は咲かない』 (←記憶があいまいで正確ではない、多分…)
サハラの宿泊していた部屋に、寂聴さんが書かれた色紙が額にあった。あなたはあなたでいいんじゃない --- そう言われているようだった。

ワタシはワタシ。
時々自分をもてあますこともあるけれど、気の合わない人もいるけれど、自分が持っている時間は有限で、やりたいことはまだまだいっぱいある。今はこうして湯治しているけれど、必ず元気になれる。そう思った。

湯治の日々は、肌を快復させるだけではなく、自分と向き合う時間をたっぷり与えられたのだと、今あらためて思う。



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